


市民の手で街に彩りを。
-GREEN COMMONS 藤田 毅さん・上戸 了子さん
「まちの花と緑をみんなで育てる」プロジェクト、GREEN COMMONS(グリーンコモンズ)。
多年草やハーブなどのベネフィシャルプランツを用いた植栽管理を行い、植物本来の豊かさを眺め、育て、収穫して、市民みんなで楽しむ参加型の長期的なグリーンプロジェクトです。
GREEN COMMONSの活動は、神戸市が掲げる長期的な緑のまちづくりの方針を背景に始まりました。
神戸市は「緑とともに永遠に生き続ける都市=緑生都市」を目指すための基本計画を策定しており、この計画に沿って街中の緑を持続可能に育てる取り組みを進めています。その方針の一環として、“みどりと花のブランド戦略”である「Living Nature Kobe」が2021年に策定されました。
Living Nature Kobeとは、都市の中に「自然の景」(季節の移ろい・植物の変化そのものの美しさ)をつくり自然と都市生活を共生させていこう、という取り組みです。こうした方針のもと、「植栽管理を一般市民が担う仕組みはつくれないか」という相談を受け、社会実験としてGREEN COMMONSがスタートしました。
初年度は、東遊園地の工事期間中に一時的に空いていた場所を活用し、土を入れるところから市民と一緒にスタート。誰でも参加できるワークショップ形式で、子どもから大人まで一緒に土壌改良や植栽を行い、「まずは植物に触れてみよう」という入口を大事にしてきました。
ただ、1年目を終えて見えてきたのは、参加者の植物経験が幅広い分、伝え方や学びの深さがばらつきやすいこと。そこで2年目からは、年間8回ほどの講座を軸に植栽管理の基礎を学ぶ「ガーデナークラス」と、コミュニティガーデンの運営まで踏み込む「マスタークラス」の2本立てで活動を行うことにしました。
3年目は、東遊園地の中に「ボランティアガーデン」ができ、活動の拠点がよりわかりやすく、街の中で“見える存在”になっていきました。
受講日は予定が合わないという方や卒業後も関わりたいという方の声に応える形で、ガーデンのメンテナンスを行う「サポート会員」や「メンテナンスデー」という枠組みができたのもこの頃です。4年目には初めて有料講座として開講したり、東遊園地で開催されたGREEN MARKETの運営にも携わりました。有料になっても受講生の方が増えたことでニーズがあることも再確認できましたね。責任を持って伝えていかねばと、外部講師の誘致にも力を入れました。
さらに5年目には、GREEN COMMONS 受講生、卒業生、講師陣、まちのみどりを育みたいと思うみなさんをつなぐコミュニティとして「GC BASE」を立ち上げました。学びの場だけではなく、横のつながりや実践の場としての役割も担うようになっています。
そうやって少しずつステップをあがることで、取り組んできたことが“点”から“面”へ育ってきていると感じています。東遊園地の簡易花壇から始まり、磯上公園のコモンガーデンやKITASUZU HAUSのガーデンなど、活動の輪が街の中に増えはじめているのも嬉しいですね。
いちばん大切にしているのは、「続く仕組み」と「楽しさ」です。
ガーデニングは暑さや寒さとの戦いもあって、正直しんどいことも多い。だからこそ、いかに楽しめる場にするかを重視しています。
講座は、学びの時間でありながらも、雑談の時間も多いんですよね。気軽に話せる空気があるからこそ続くし、仲間が増える。その積み重ねが、場の力になっていくと感じています。
ボランティアガーデンには「ご褒美の仕組み」もあります。
エディブルプランツ(食べられる植物)やハーブ、ブルーベリー、ピンクペッパーなど、収穫できる植物をあえて多く入れ、作業のあとにみんなでシェアできるようにしているんです。頑張った分だけ手触りのある喜びが返ってくる。そういう設計が、無理なく続けられるコツだと思っています。
もう一つ大切にしているのが、受講者に「コミュニティ運営」を学ぶ機会を設けていることです。
マスタークラスでは植栽管理の知識だけでなく、ボランティアリーダーとして、仲間をどう増やしてまとめていくか、企画をどう立ち上げて運営していくかといった部分も扱います。実際に、GREEN MARKETでの企画立案や運営なども、マスタークラスの受講生たちが話し合いながら進めてきました。
植物だけでなく、人との関係性も育てていく。その両方を学べることが、GREEN COMMONSならではの価値だと感じています。
ここで学んだ人たちが自立し、それぞれの場所で緑に関わっていけるように。GREEN COMMONSはそうして、街に緑の担い手が増えていく“ムーブメント”を目指しています。

目指しているのは、街の顔になるような場所が、市民の手で彩られていく未来です。
今はプランターや小さな区画から始まっている案件も多いのですが、ゆくゆくはもっと大きな公共空間にも、市民が関われる余地を増やしていきたい。神戸の中心部の緑が「専門家がつくった」だけではなく、「一般市民が参加して育てている」と語れるようになったら、それは世界に誇れるストーリーになると思っています。
また、卒業生の活躍の場も、これからさらに増やしていきたいところです。学んで終わりではなく、緩やかにつながりながら実践を重ね、少しずつ自立していける。そんな場を拡げていきたいです。
そして何より、街の緑に少し目を向ける人が増えてほしい。関わることで景色の見え方は変わります。自分の手が入った場所は愛着が湧くし、他の場所も気になってくる。結果的に、そうして街が綺麗になっていくと思うんですよね。その循環を、もっと拡げていきたいと考えています。

