


つくる、渡す、つながる。ZINEが生む、手触りのある関係。 
-DIY BOOKS 平田提さん
2023年にオープンした、兵庫県尼崎市・武庫之荘にある「つくれる本屋」です。
本屋として常時営業する形ではなく、DIYで本をつくる人を増やすことを目的に活動しています。
ZINEを自ら制作するほか、ZINEやライティングに関するスクールの開催、落語会やトークイベントなども行っています。
※ZINE:個人や少人数で発行する、自主的な出版物のこと。
それまではずっと会社員でしたが2019年に独立し、2021年に株式会社TOGLを立ち上げました。
Webの編集やライティング、コンテンツマーケティングを主軸にした会社で、リモートワークが中心です。一人で仕事をする時間が多く、気づけば誰とも話さないまま一日が終わる、という日も少なくありませんでした。
仕事自体は順調でしたが、コロナ禍も重なり、人とのつながりや手応えを感じる機会が少しずつ減っている感覚があったんです。
そんな中、この街で暮らすうちに「武庫之荘の街に役立つことをしたい」「アナログなものを、会社としてつくれないか」と考えるようになりました。
もともと印刷機(リソグラフ)やZINEづくりには強い関心があって、実は2010年頃から個人的にZINEをつくっていたんです。振り返ると、人生に迷ったタイミングごとに、ZINEをつくることで気持ちを整理してきたなと気づきました。
もうひとつ大きかったのは、子どもが生まれたことです。街に「つくる人」が増えていく風景は、暮らしとしても、子育ての環境としても、きっといい。そんな思いにも背中を押されて、DIY BOOKSを始めました。
今のDIY BOOKSは、ふらっと立ち寄る販売店というより、スクールやイベントを目的に来てくださる方が中心です。
ZINEづくりのスクール「DIY ZINE SCHOOL」やライティングスクールの「書く、くらす」には、オンラインも含めて全国から参加があります。
地域の人に向けて始めた取り組みでしたが、今は少しずつ関係人口が広がっている感覚があります。来年は、地域の子ども向けワークショップも増やしていきたいと考えています。
一番は「ちゃんと手応えが返ってくるところ」だと思っています。
SNSでは、何万回表示されても「誰に届いたのか」が見えにくいことがありますよね。でもZINEは、たとえ50部でも、お金を払ってまで手に取ってくれる人が確実にいる。その実感があります。
派手にバズらなくても、自分の身の丈に合った反応が返ってくる。今の時代に、とても相性のいい表現の形だと感じています。
もうひとつは、「終わりがある」こと。
デジタルの表現は良くも悪くも終わりがなく、作る側も読む側も区切りを見失いがちです。でもZINEは、ページ数を決めた時点でゴールが見えるんですよね。16ページでも、8ページでもいい。終わりがあるからこそ、最後まで作れるし、最後まで読んでもらえる。その「完結する感じ」が、作品としての手触りを生むんだと思います。
そしてやっぱり、「紙」であること。
手に持てるから、人に渡せる。人から人へ、思いがけない形で広がっていくこともあります。
実際に、自分のZINEが想像していなかった場所で読まれたり、紹介されたりすることがありました。データだったら、きっと起きなかったことだと思います。
ZINEは「物」として存在するからこそ、予想しない転がり方をしてくれる。その偶然性も含めて、とても面白いメディアだと感じています。


人それぞれですが、大きく分けると3つあります。
1つ目は「企画の輪郭」。
頭の中にモヤモヤはあっても、形にするきっかけがないと前に進めません。そこでスクールでは、まずページ数を決め、白紙の冊子をつくり、ページ番号を振るところから始めます。“終わり”を決めることで、自然と動き出せるようになります。
2つ目は「デザイン」。
余白の取り方や文字の組み方など、デザインに初めて触れる方も多いですよね。PCソフトを使うのも良いですが、最初は紙を切って貼るコラージュ形式もおすすめです。個性や味が出て楽しいですよ。
3つ目は「紙と印刷」。
紙の厚みや質感は本当に幅広く、プロでも最適解を選ぶのは難しいものです。紙はサンプルを実際に触ってみること、印刷はコンビニのコピー機でもいいので、何度か試し刷りしてみるとレイアウトの勘所がつかめると思います。
とにかく大事なのは、まず作ってみること。
最初の一作目は、8ページでも、見開きサイズでもいい。締め切りを決めて短期間で仕上げてみてください。一度作ると「次はこうしよう」という改善点が見えて、次がぐっとやりやすくなりますよ。
いずれは子どもたちが、ZINEづくりを通して学べる場をつくりたいと思っています。
自由研究をまとめる感覚で、編集して、伝える形にする。最近の探究学習とも相性がいいので、ぜひチャレンジしたい分野です。
もうひとつ、すでに動き出しているのが、地域のアメリカ人の方と一緒に行う「英語を学び、英語でZINEをつくる」スクールです。
英会話はゴールが見えないと続きにくい。でも“終わりを決めて形にする”ことで、学びの手応えが残る。完成したZINEを海外のブックフェアに持っていけば、英語圏の人に届く可能性もあります。そんな循環をつくれたら面白いですね。


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